「ねえ、ディーノ・・・前々から疑問に思っていたことがあるのだけど」

この星どころか月もでない夜。私はついに、これを口に出すのだ。旧華族出の、それなりに恵まれているけれど、厳しい家柄のなかで育ったこの私が、ディーノというホストを贔屓にして早三年。それまでの間、ずっとそれに関して見てみぬフリを続けてきたが、それももう限界だ。その文字の羅列を見るたび、私の妄想は膨れ上がり、他の女とディーノの姿がうかんでは消えていく毎日。もう、嫌だ。

「ん、なんだ。にならなんでも教えてやるよ」

そんな邪な私の心を吹っ飛ばすような、ディーノの笑顔があまりに輝いていたものだから、先を紡ぐのを非常に躊躇われる・・・しかし、やはり気になるものは気になる。これでも三年間という、短いようで、結構長い時間耐えてきたのだ。これまで我慢と言うものを知らなかった、この私が。質問くらいで、戸惑う必要はない。わたしは客なのだから。

「ええ、ありがとう。あの、このメニューの・・・鞭プレイって何かしら?

そう、何故か知らないが、彼のサービスの中には鞭プレイというものがある。そして、それだけ無駄に値段がとびだしているのだ。長年彼を贔屓にしてきたが、これだけは未だ試したことがない。 むしろ、名前が名前だけに、試す勇気がでないのだ。・・・鞭プレイ。なんなのだろう。もしや、こんな優しげな甘いマスクで、部下がいないとドジをふんでしまうおっちょこちょいなかわいいあのディーノが、夜な夜な汚いメスブタに微笑み湛えて鞭をぶんまわすサディストだとでもいうのか!?

「ああ、それは・・・ほら、オレ、鞭捌き得意だろ?」
知らねえよ

あまりにもな答えに、私は思わず凄んでしまった。旧華族出のお嬢様がする顔ではないと自分で十二分に承知している。が、仕方のないことだと理解していただきたい。 だって、鞭捌き得意だろって・・・知るわけないだろ私にそんな趣味はないのだからむしろそれを私に見せたことがあるのかいやないだろうあったのならそんな衝撃的なことこの若く麗しい脳ミソを持つ私が忘れるはずないのだから。(ノンブレス) ああ、本当に彼はSMプレイ大好きな束縛男だったりするのであろうか。無理だ。無理だろう。だって彼は、部下がいないと何もできない駄目男なのだから。それとも何か。そういう行為の最中でさえ、あの黒スーツを身にまとったイカつい男どもに囲まれているのか。視姦なのか。・・・ここは、この手の業界ナンバーワンと名高いHOST VONGOLAに乗り換えるいい機会なのかしら。だんだんと、知らず知らずに私の顔は歪んでいく。それはかなり酷かったようで、部下がいなくてどんくさいディーノにさえも気付かれてしまった。

・・・大丈夫か?なんかオレより漢気がある気がする

あってたまるかこのヤロウ。たしかに今のアンタに漢気などないだろうが、それでも私は女であり、グラスより重いものを持ったことない。持つことを許されなかったような環境で生きてきたのよ。私は生まれて初めて人間の顔を殴ってやろうかと思った。いけない。お母さまに知られては、何をいわれることか。むしろ、何をされることか・・・。決してこれ以上悟られてはならない。たとえ母と面識のないものだとしても。

「いいえ、大丈夫、気のせいよ。それより、本当にどういうものなの?」
「ああ・・・口ではうまく説明できねえな。今夜あたり、どう?」
「・・・それは」
なら、三割引きで請け負うぜ」

ありがとう。そう口は動いたけれど、決してありがたいと思うことはできなかった。 私の予想があたっているのなら、それは確実に私の望んだものではなく、むしろ避けてとおりたい場所である。 私は彼とそういう関係になる気はない。あくまでビジネス上での付き合いなのだから、そこまで・・・というか、普通のでさえ未だだというのに、いきなりそれは、ちょっと・・・勘弁してよ。

「よし、決まりな。じゃあ今日は店仕舞いで」
「・・・そうね」

結局、あの笑顔に抗うことができず、頷いてしまった。できる限りで彼の売り上げに貢献してきた私。いつも支えてあげていたつもりの私。今日で全てのサービスを注文した私。 そして、その夜起きたことは未だ誰にも言っていない。いえない。いいたくない。きくな。きいたら私の全財産、全権力、全能力をもって潰す。壊す。還す。 ただ一つ、教えてあげるとするならば。

「・・・いたい」

それは、三日ほどつづいた。





La
pecora
dirige
zanna





(お好きなように解釈していただけますと助かります。微笑|FRANCIUMさまに!|realize sawo)