憧れだ。
『ハードシップ+ハードターン』
「新入り?」
「そうだ、昨日この店に押しかけて来てな。入りたいって言ってたんで、面白いから入れてやった」
「リボーン!そんな…みんなの意見も聞かずに勝手に!」
「いいじゃねぇか。それにツナ、おまえ、責任者でもないのに偉そうだぞ」
「うっ…」
午後四時。
ホスト界で超大手企業とされる"HOST VONGOLA"では、ナンバーワンホストの沢田綱吉と、その先輩でもあるリボーンとが言い争っていた。
その声に、店内を掃除していたナンバーツーホストの獄寺隼人が反応する。
「どうかしたんですか、十代目」
「獄寺くん…………聞いてよ、リボーンが勝手に新入りを……」
「あ!昨日、打ち上げに来たですよね!」
「え……?」
綱吉は、新入りをまるで知っているような口ぶりの獄寺に、確かめるように聞き返した。
「?」
「ええ。オレ達は昨日、そういつに会ったんっすよ…………そういえば、十代目は昨日の打ち上げに参加していませんでしたよね」
「そうだったんだ……って!リボーン!そういう事ならなんで昨日のうちに、メールか電話で言ってくれなかったんだよ!」
「うっかりだ」
「うっかりですか?!」
なおもリボーンに食いかかろうとする綱吉を、奥からやってきた天然ホストの山本武が「まあまあ」となだめる。
「の奴、もうすぐしたら来るって電話で言ってたし。別にいいじゃねぇか、そんなに怒らなくても」
「山本……」
綱吉が山本に何か言おうとしたその時、店のドアが開いた。
「こんにちはー!」
「よう、!」
「少し遅かったぞ、」
「、こちらの方が十代目だ」
獄寺の言葉に、店内に入ってきたスーツ姿の青年は、気さくな笑顔で綱吉に挨拶をした。
「初めまして、えっと…沢田、綱吉センパイ!俺、って言います!」
「あ、は、初めまして…」
「よろしく」
手を取ってぶんぶんと振るを、綱吉は三白眼で眺める。
身長は綱吉と同じくらいだが、はスーツを完璧に着こなしていた。
ただのお調子者、といった浮ついた空気はなく、馴染みやすい雰囲気がある―――天性のものだろう。
少し童顔じみているが、白い肌はスーツと相まって、端正な顔立ちを強調している。
の無邪気な笑顔に、黒い気持ちが巡る胸を、綱吉はそっと押さえた。
「それでさぁ、恭弥センパイったら、俺の事を必死で追いかけてきて…」
「…それで、くんは大丈夫だったの?」
「もう大変大変!鋭いトンファーを避けながら、『恭弥センパイ!ちょっとウブ過ぎですよそれは!』って言ったら、もっと怒ってきて…」
「まあ……」
「あんな言葉程度で真っ赤になるなんて、恭弥センパイってやっぱりウブなのかなって内心…」
「、それはぼくともう一度戦いたいって意味かい?」
「うげ…恭弥センパイ……」
「恭弥くん…」
「どうなんだい、」
「そういうわけじゃありませんよ!大体、恭弥センパイだって俺にトンファーをくわえさせて、『奥までちゃんと舐めてみせてよね』って、散々辱めたじゃないですか!」
「きゃああ!恭弥くんったらそんな事を!」
「私たちも行きたかったわ!」
「ずるいわよ、恭弥くんだけ!」
「…お客様からのご要望だから……特別にもう一度、ぼくのトンファーをくわえさせてあげるよ」
「遠慮します!遠慮しますったら!」
楽しそうに騒ぐ新入りのテーブルを見て、綱吉は荒くウイスキーをあおった。
グラスをテーブルに下ろす動作も、少し荒っぽい。
隣に座っている客の女が、綱吉を覗き込んで言う。
「なんだか今日のツナくん、不機嫌そうよね?」
「そ、そうかな?」
「うん、何だかちょっと、雰囲気が硬いかも…」
「そんなことないよ…うわっ」
慌てて拒絶しようとして、綱吉は酒瓶を倒した。
「きゃ……」
倒れた酒瓶から溢れた酒が、女のドレスにかかる。
綱吉は軽いめまいを覚えながらも「すみません!すみません!」と言い、急いでタオルを持ってくる羽目になった。
何もかも、あの新入りのせいだ。
…いや、人のせいにするなと自分にも言ってやりたい気もする………
綱吉はふいと、当の新入りを見た。
は初めての仕事に疲れたようで、誰もいないソファに座り込んでいる。
その姿は、店内に当たり前のように存在している。
「何、馴染んでんだよ…!」
こんな調子じゃ、駄目だ。
分かっているのに。
「……センパイ?」
「………偉そうなんだよ」
止められない。
オレはに近づいて、熱い呪詛をはいた。
「偉そうなんだよ、いきなり入ってきて………みんなと、勝手に仲良くなって…!」
勝手なのは俺だと。
分かっているのに。
オレはの、伸びた髪を掴んで引き上げる。
目の前の、の女顔が歪む。
「うぁっ……」
「勝手に…勝手に奪うな……オレの居場所を…」
「う、ばって…なんか……」
「…………!…うるさい…っ!!」
オレの手が、の頬に吸い込まれて。
ぱん、と。
乾いた音が響いた。
の頬が、紅く染まる。
オレの眼を、は潤んだ眼で見て。
―――――ごめん、と言った。
「ごめん、なさい………本当、に……そんな、…つもり、じゃ…」
「…っ!うるさい、うるさ…!」
オレは。
オレは、何をしている。
の眼から、涙が溢れ流れた。
嗚咽まじりの、の良く透った声が、店内に広がった。
「センパイが…、そう言うなら……そこまで、言うなら…辞めるよ、俺」
すっと伸びたの両手が、
オレの頭を挟み込む。
オレの手から、の髪が離れる。
「お、オレ…」
「昨日、みんなからセンパイの話を聞いて、凄く憧れた。
優しくて、何でもできて、人気もある、って……!」
そんな事、ない。
優しくなんて。
あるはずが、ない。
「憧れて、センパイの元で働きたいって思って、…っ、…だから…!
でも、…っ、もう、いい…っ!め、っ迷惑なら、もうっ…いい!」
ぼろぼろと、ぽろぽろと。
綺麗な涙が零れて、落ちていく。
それは店内の照明に照らされて。
綺麗に輝いていた。
「ごめっ…なさ、い……ごめんな、さ…」
「………ううん」
オレはの手を絡みとって自分の頬に当て、泣きながら――――言った。
「オレの方こそ、ごめん。勢いで、殴っちゃったし…本当にごめん」
「センパイ………!そんな、こと……」
「もういいよ、謝らなくて。オレが謝らなくちゃいけなかったんだ。ごめん。…こんな、どうしようもない、先輩らしくもないオレだけど……
――――――これからも、一緒に頑張ろうな、」
オレが笑いかけると、は泣きながら、子供の様に笑った。
それはとてもとても綺麗で、ずっと見ていたいくらい、
純粋だった。
「お、二人してそんなに眼ぇ真っ赤にして、どうしたんだ?」
「い、いや別に…ね、!」
「そうですよ!センパイ!」
ははは…と空笑いをする二人に、仲間達は首を傾げる。
「そういえば十代目、今日は打ち上げに参加するんですか?」
「んー、せっかくだから参加しようかな」
「あ、俺も参加します!」
嬉々として手をあげたを見て、ランボは微妙な笑いをした。
「…………さん、参加するのは構いませんが、昨日みたいに酔って服を脱ぎ始めないで下さいね。一応女性なんですから」
「そうだぞ!!酒を飲んでも飲まれるな!」
「すみません、ランボセンパイ、了平センパイ…………って、どうしたんですか、綱吉センパイ」
眼を見開いて口をあんぐりと開けている綱吉に、リボーンは「言い忘れてたな」と言う。
「は女だぞ」
「は………は?」
「知らなかったのかい?」
「え?…?」
「俺、女ですよー。言いませんでしたっけ?」
「なんで…?」
「性同一性障害ってやつだな。本人は自分が女だっていう確信が、まったく持てないんだぞ、は」
「そういうことは早く言えよ!」
「うっかりだ」
「うっかりですか?!」
「あんまり気にしなくていいですよ、綱吉センパイ」
は微笑んで言った。
「俺は男のつもりですから」
憧れだ。
男として、あなたの事が。
At:Gaki(2007.2.4.)
ええともう、何と言いますか……スミマセン……
初めましての方には初めまして、首輪のない犬です。
この作品はFRANCIUMにて書かせて頂いた、リボーンメンバー夢小説(ホストパロ)でございます。
書いていて色々と思うところがありましたが…私の技術ではこれが精一杯の夢一杯です……シリアスって何。とある黒犬さんの仲間ですか。
さて、ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
夢作家としては至らない所も各所ありますが、自分の作品は軽く目を通して貰えるだけでも嬉しいです!
本当にありがとうございました!