茶番だ。何もかも。
例えば幼なじみがホスト業界ナンバーワンの店舗の日本支店のナンバーワンホストだったりとか、同級生が皆そのホスト『VONGOLA』の人気ホストだとか、仲の良かった女の子がみんなホステスだとか、憧れだったボクシング部の先輩もそこでホストの真似事をしているだとか。
恋人が、そこのホストだとか。
Tears-colored woman
「取材は以上です。どうもありがとうございました。」
「良い記事が書けそうですか?」
「ええ、とても。」
女性誌のライターなんて糞だ。そう思っていたのにそれは今ではすっかり板に付いてしまっている。まだ、初めて2年しか経っていないのに。
、24歳。職業、雑誌記者。
ホストブームにあやかって、私たちの雑誌もホスト特集なんて馬鹿げた物を雑誌に載せるらしい。よりによって、取材対象はこの店だ。不愉快きわまりない。
ああ、こうしている間にも世界には大きな事件が一秒おきに勃発しているというのに。
私は何処で間違ったのだろう。少なくとも私は新聞社に勤めてあらゆる事件の真相の追求に日本中を飛び回る予定だった。
けれど、そんなものは有名大学の卒業者に奪われて。そこそこ名の通った私学出身の私程度じゃ、ここで収まるのは目に見えていたのに。
「・・・じゃあ、仕事はここまでなんだよね・・・・。」
すると私の幼なじみは馴れ馴れしく薄暗い開店前の店内で私の肩に手を回してきた。
「変わったわね、ツナ。」
「俺も、人並みに汚れたから。」
「・・・私は、泥だらけで頑張ってるあなたが好きだった。」
そうだ、ホストなんて糞だ。楽して金稼いで、女に媚び売って貢がせて。
私は、駄目ツナと呼ばれても何回転んでも立ち上がるこいつが好きだった。
「クスッ・・・は変わっていないね・・・頑固なところも、全然汚れないことも・・・。」
彼は自分の細い指を私の顎から頬にかけて這わせた。・・・寒気がする。
「金づるを増やしたいの?・・・私のお父さんが一流会社の社長だから。」
でも残念ね。私は今独り立ちして随分と経つ。親からの援助はもう一切受けてはいない。
そんなことも知らず、ツナはクスクスと笑いながら私の髪を弄っていた。
もう一度言う。・・・ホストなんて糞だ。
私はチャラチャラした男は大嫌いだし、それに大金を注ぎ込む馬鹿女も大嫌いだ。
けれど、彼の側を離れない・・・離れたくない理由が・・・・私には有った。
「抵抗しないの?・・・。」
「・・・ほんと、あなたは変わってしまったのね・・・。このさっきの取材で、『私たちの店のホストは、皆恋人はいません。』と言っていた癖に・・・。」
「事実だよ?・・・僕が君を手に入れたら、その掟は撤廃するけど。」
「・・・あなたが好きなのは私じゃなくて、あの人の恋人である私よ。」
「そうかもね・・・・。けど、現に今は僕の腕の中にいても綺麗だ。」
ああ、頭がクラクラする。でも、もうあと2、3分で私の目的は達成される。
「ねぇ・・・つまらない雑誌の記者なんかやめてさ・・・ここのホステスになりなよ。そうすれば、ずっと君を見ていられる。」
「ふざけないで。・・・私は・・・・」
「京子ちゃんやハルもいるのに・・・?」
「・・・二人も、あなたが勧誘したのね・・・。」
「当たらずしも遠からず。」
「さしずめ誘惑したんでしょう?・・・汚い手を使って。・・・あのころのツナは・・・!!」
「・・・・・何・・・・やってるの・・・・?」
ああ、そんなに顔を歪めて。でも分かったでしょう?恋人が異性と体を密着させて仲良くしているだけで、胸に氷の杭が打たれたようでしょう?
ねぇ、もっと苦しんでよ・・・。
「恭弥・・・。」
「っ・・・」
そう、そうやってあなたは私の右手を掴んでさらっていく。表情は見えないけれど、悲しみで歪んでいればいいと思った。
「雲雀さん。・・・この店は恋人厳禁だったはずだよ。」
「・・・・・僕がしばらく、謹慎していれば良いんだろ。」
それだけ吐き捨てて、彼はまた歩き始めた。いや、小走りという表現の方が近いかもしれない。
視界の端に移ったツナが、悲しそうな微笑みを浮かべていたけれど。私はその理由を知る術を知らない。
「んっ・・・ふぁ・・・・。」
ねじ込まれる熱い舌は、私の心を埋めるに十分な物だった。
ああ、この光景を彼の常連であるお姉さま方に見せつけてやりたい。彼は私の物なのよ。
「・・・あいつに・・・何された・・・・。」
「あなたには関係ない。」
連れ込まれたラブホテルの部屋の入り口で、そんなやりとりが交わされ。
私は今までの逆襲に出た。
「・・・ホストのクセに・・・・他人に愛を安売りするのが仕事のクセに。・・・何焦ってるの?・・・らしくないのよ、バッカみたい!!!!!!」
私は鞄から、取材の時にとった店内の写真を恭弥に投げつけた。
店内の様子をとるだけのつもりだった。けれど、気が付いたらあなたのことばかりとっていたのよ。
取材だから仕方ない。そう言い聞かせてVONGOLAの敷居を跨いだ。二回目だった。
一回目は、大学3年の春だった。同級生たちがそろいも揃って働いているというそこを冷やかし半分見に行っただけ。そしたら・・・
そこに、私が大嫌いだった風紀委員長がいたのよ。私は一瞬で恋に落ちた。
「・・・分かってたわよ・・・ホストに恋した時点で、私の負けだったなんて・・・けど!我慢できなかったの・・・私、恭弥が好きすぎて仕事も手につかないくらい惚れちゃったから・・・。」
彼は夜に仕事。私は朝から仕事。すれ違う日々に、もう限界が来ていたのかもしれない。
私はやっぱり、たまに逢って抱き合って、それでまた一ヶ月も逢えないなんて・・・そんなクールな恋愛は無理だ。
好きな人とはいつも一緒にいたいし、好きな人にはなるべく女の子と仲良くしないでほしい。
なのに、私が帰宅途中に繁華街へ寄れば何の悪戯か2分の1の高確率で隣に綺麗な・・・本当に綺麗な、私なんかと比べたら宝石とゴマくらいの輝きの違う女の人を連れて、腕組んで仲良さそうに歩いてる。
私は直ぐにでも割って中に入りたいのに。そして彼に口づけして「恭弥は私の!!」って幼稚園児みたいな言葉を吐きたいのに。
でもそれは私のプライドが許さないし、何より恭弥に『重い女』と思われたくないんだ。
けど、そんな我慢ももう限界なんだ。息が詰まって死にそうだよ・・・恭弥・・・。
「こんな面倒くさい女・・・恭弥が苦しむだけだよ。・・・私も、苦しいばっかりだ・・・。だから・・・・」
「・・・僕に妬いててくれてたの・・・・?」
私が泣きっ面を晒しているというのに、目の前の妙なところでピュアな男は素っ頓狂な声をあげて豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしていた。
「・・・は?」
「いや、だから・・・僕のために、嫉妬してくれたの?」
いやいやいやいや、あなたの為かどうかは分かりませんが、だったら何で私が先程からわんわん泣いているとお思いで?
私が半ばやけくそで肯定の言葉を述べれば、どういう見解からなのか恭弥は凄く嬉しそうに(いや、彼は感情を表に出すのが下手だが、やっと私にも彼の微妙な顔の表情で彼の心情を察することが出来るようになった。)(何たって、もう3年も付き合ってるんだもの。)私に抱きついてきた。それはもう、ガバッと。飛び付くような感じで。
「ちょっ、ちょーっと恭弥さーん?先程までのシリアスな雰囲気は何処・・・」
「やっと妬いてくれた・・・。」
いよいよ話がややこしくなってきたぞ?やっとって何?やっとって。私は一目惚れした当時からあなたに関しては悶々としたどす黒い感情を胸にずっと飼っていましたけど?
私の頭上に浮かぶ?マークも無視して、とうとう恭弥は私の首筋に赤い鬱血痕を散らせ始めやがった。(ギャー!!慣れてないの!!つきあい始めてもう三年だけど、体の関係に発展したのは去年の冬だから、慣れてないのー!!!)
「僕ばかりが妬いて、君が何も感じないなんて卑怯だと思ったんだ。・・・悪い?」
あろう事か、元鬼の風紀委員長は拗ねたような口調でそうブツブツと呟き始めたではないか。
「ちょっと待って、話が読めない!!・・・どういうこと?」
「・・・ホストの僕に対して、一向に嫉妬する傾向が見られないから・・・・君は、僕のことを・・・・その・・・言うほど好きじゃないのかと思って・・・・だ、だから試したんだよ悪い!?」
ついには長年の相棒トンファーを取り出して起こりだす始末。けど、私はそれどころでは無かった。
「た、試したって・・・。」
「ホストの特集なんて嘘だよ。・・・僕が君のところの編集長を脅・・・こ、交渉して、無理矢理作ってもらった。」
「・・・・・は?」
意味が分からない。恭弥は私に妬いてもらいたくてホスト特集なんて嘘っぱち企画を編集長を脅して作らせて、そして私はそれにまんまと引っかかって彼の手のひらで転がっていたというのか?Why?何故。
「な、何でそんなことするのよ!!あれが嘘っぱち企画だったっていうの!?じゃあこの一週間の地獄のような取材は何だった・・・」
「ああ、心配しないで。その記事はちゃんと載るよ。」
「そっかー、良かったー。私が初めて単独で取材した記事だもんねー、じゃなくて!!じゃあ私は、恭弥の策略で恭弥が女の人とイチャイチャしてる光景を1週間も見続けたの!?」
「・・・・・だろ・・・。」
「はぁ?」
「・・・っ、君が!合コンなんか行くからだろ!!」
フリーズ。ちょっと待って。確かに、私は最近恭弥のいない寂しさを埋めるために最近合コン三昧やらかしてましたすみませっ(最低
だって、恭弥に見合う女になろうと努力している所為もあってか、凡人の中ではそこそこ綺麗な方だし、だから男の人もチヤホヤしてくれるんだよ!!(自白
けど、それらのことは彼が働いている街から遠く離れた場所でしかやってないし。もちろん恭弥以外の男性とは手を握りあったこともございません。
何故知ってる。
「・・・六道が・・・・写真を持ってきたんだよ・・・。君が、他の男と楽しそうに会話してる写真をね!!」
「ふみゅっ!?」
それだけ吐き捨てて私をベッドに押し倒し唇を奪うものだから、なんだか変な奇声が私の口から漏れてしまった。
「ふあっ!ま、まっ・・・んんっ・・・。」
「・・・・・・っ・・・・。」
舌を絡められ、吸われ、甘噛みされて。力が入らない私に、輪をかけるように太股を行き来する手が背中をゾクゾクと振るわせた。
切なそうに顔を歪める彼を見ながら、自分の行動の軽薄さを呪った。
壁に耳あり障子に目あり。本当に彼のことを思うなら、私は寂しさを埋めるなんて名目でそんな遊びを覚えてはいけなかったんだ。
酸欠に成り行く頭で、取り敢えず六道骸にはあとで素敵な嫌がらせを送りつけてやろうと考えていた。
「僕だって、くだらないと思っている・・・。ホストのクセに都合が良いと思っている。・・・けど、その事といい、さっきの・・・沢田との事といい・・・。僕は・・・」
「ねぇ、恭弥・・・。この際だから、私もあなたに言いたいこと全部言い良い?」
彼は、私のスーツを脱がす手を止めた。ああ、もう限界だ。そこまであなたが言うのなら、こっちだって言いたいことが山ほど有るんだ。
言ってやるとも、ああ言ってやるさ!
「なん・・・だよ・・・。」
「お客さんに、その髪を触らせないで・・・。」
「へ?」
「お客さんにその手を握らせないで、お客さんに頬にキスさせないで、お客さんにその腕を組ませないで、お客さんに甘い言葉を吐かないで、お客さんに唇を触れさせないで、お客さんにメアドを教えないで、お客さんに物を買ってもらわないで、お客さんにお金を貰わないで、お客さんにデートの約束をさせないで、お客さんに名前を呼ばせないで、お客さんに体を許さないで、お客さんを好きになったりしないで、私を嫌いにならないで!!!」
はぁはぁはぁ。私は本当に酸欠で逝ってしまいそうだ。
本当はこんなの本当に一部で。本音を言うならホストを辞めてと言いたいの。
けど、私にそれを言う資格は無いわね。日本国民には、憲法で職業の自由が保障されているもの。
言って、後悔。彼は驚いた顔で私を見つめていた。
「引いた?」
そう問えば、恭弥は普段のクールさなんて微塵も感じさせない無邪気な仕草で首をフルフルと横に一生懸命振っていた。
「う、嬉しいよ?・・・普通に。・・・僕、は・・・に・・・妬いてもらいたかった・・・から・・・。」
ああ、ヤバい。涙出てきた・・・。
「・・・ごめん・・・なさっ・・・・私、もう無理・・・。恭弥が、欲しくてしかたない・・・っ・・・。」
何も言わず、彼は優しく私を抱きしめてくれた。そしてベロリと私の涙を舐め取った。
「・・・の涙・・・なんか甘い・・・。」
「・・・ひぐっ・・・ううっ・・・。」
「僕も・・・が欲しかったんだよ?・・・ずっと・・・。」
「知らな、かった・・・もん!!・・・私だけが、舞い、上がって・・・るって・・・思っ、て・・・。」
「ねぇ・・・もう、出版社なんか辞めてよ。・・・あんなところ、に嫌らしい視線を送る変態の巣窟じゃないか。」
「・・・っ・・・でも・・・私、働かなきゃ・・・。」
「大丈夫。あのホストクラブは恋人は厳禁だけど妻に対する規制は全くないから。」
ジェラシーマシンガンレディー&ジェントルマンに気をつけろっ!!☆
「え・・・・ええっ!?」
「心配要らないよ?君と子供二、三人くらいなら、余裕で養っていける。」
(仲直りした後にウザいくらいイチャイチャするから気をつけろっ!!)