Between light and shadow

「、今日も綺麗ですね。」
「お世辞は開店後に言って貰えませんか?六道さん。」
「本当のことを言ったまでです。綺麗な黒いスーツも似合っていますよ。」
「そんな事言っても、減給は免れません。」
私はそう言って、彼を見て眉を吊り上げる。
豪華なイスに座っている彼は、私を見るとそんな事思っているわけないじゃないですか、と営業スマイルで返してきた。
「私に営業スマイルを向けたら、減給と注意していましたが?」
「心外ですね。これは心から笑みですよ。」
言い訳がましいです、と私は手元にあるチェック表を見せつけるように爪でカツカツと鳴した。
「取締役の私の身にもなってもらえませんか?」
「僕が問題を起こす分、が来てくれるなら喜んで毎日起こしますよ。」
「そんな暇あるならお客様に身を削る思いで接客して下さい。」
それは置いといて、と私は彼を睨み付ける。
「VONGOLAに喧嘩売ったり、襲撃したり、アンタ一体閉店後にどんだけ体力あるんですか?」
「、口調がおかしくなっていますよ。何ならタメ口でいいのでは?」
「私だってタメ口がいいですよ。上が禁じてるんですから。」
「罵るも、女王様的で素敵ですが。」
「とんだドMですね。残念ですがSMプレイをする気はありませんので。」
「世界はSMで関係が保たれているんです。毎日がプレイですよ。」
「何でもSMを基準に考えないでくれますか?すごくエロくなった気がします。」
「世界=エロです。エロの結晶が子供です。」
「本当に黙ってもらえます?今にもその分け目に沿ってチョップを繰り出したくなりますから。」
私は、はあっと溜め息を吐いてから、彼の正面のイスに腰掛ける。
髪をかきあげて足を組む。
先ほど言ったように、私はHOST VONGOLAの取締役だ。
全ての店舗の売り上げの回収、ホストたちへの給料の配分、そして、順位の整理なども私たち取締の仕事。
私はそのトップなのだが、流石はナンバーワンホストクラブ。
変人、奇人、天人(えっ銀○!?)、盛り沢山だ。常識人が、逆に目立つほど異様な人ばっかり。
「お客様の接待で体力を使い果たさないところは尊敬します。
でもですね、一々喧嘩を吹っ掛けて、処理するのは私たちなんですよ?」
「お客へなんて、気遣いしませんからね。クフフ。」
「笑い事じゃないでしょう。そこに気を使わなくてよくナンバーワンになれますね?」
「みんなSMを求めているんですよ。」
「…話を戻します。」
「おっとスルーですか?」
「いえ、必要無いことは飛ばす主義なので。
とりあえず、喧嘩を吹っ掛けたら、まずあなたが減給されます。
更に、その減給の計算やら、壊された物品の弁償代やら。
また細々しい作業を私たちがしなきゃいけないんです。別にアンタが減給されようが、どうでもいいんです。」
「本音がポロリですか?ついでに「黙って」
エロそうな発言が出そうになったため、即座に制止をかける。
「ナンバーワンは色々とストレスが溜まるものなんですよ。それを喧嘩で晴らそうとしているだけです。」
「六道さんに、ストレスなんかあったんですか?というか、喧嘩で晴らそうとするな。どうせなら、お客様との夜で晴らせ。」
「も破廉恥ですね。客とはなんの関係もありませんよ。」
「あの夜はなんだったの!と押しかけるお客様を、何十回処理したか、アンタ分かってんの?」
「規則はどうしたんですか、規則は。敬語がありませんよ。」
「規則は破るためにあるんですよ。
それより、そろそろ喧嘩を止めないと、給料がゼロに近くなりますけど、どうやって生活するんですか?」
「もちろん、お客のツケで。」
「アンタならツケだけで生活出来そうですね。」
私がそう言うと、彼は少しだけ真顔になった。
私は、どうかしました?、と聞くと、彼はニヤリと笑う。
「にも分かるでしょう?ナンバーワンの大変さは。」
「さあ。凡人の私には、分かりませんよ。」
「何を言ってるんです。不動の女帝と噂された、HOSTESS VONGOLAの元ナンバーワンホステスが。」
「そんな時期もありましたが、時間と一緒に流しちゃって下さい。今はただの取締役ですから。」
「クフフ。のホステス姿、是非とも見てみたい。」
「すみませんが、それは叶いませんよ。私はこの世界から身を引いた、元ホステスにすぎません。」
私は以前、ホステスだった。だが、そこから身を引き、改めようと管理局に向かった。
そのときに採用されたのが、この仕事。
大方、ホストやホステスの仕事が分かるだろうと抜擢されたのだが、私は踏んだり蹴ったりだった。
夜の世界を離れるときも、色々と反発や、脅迫も含んだ辞めないでコールを撥ね除けて、
プライドや今まで外見や人への気遣いなどに磨いてきた日々を捨てて新しい一歩を踏み出そうと思った暁が、
またこの仕事に行き着いてしまったのだ。
間接的ではあるのだが、夜の世界から身を引いた意味があまり無いように思えて仕方がない。
「とりあえず、給料減給のお知らせと、お客様は大切に!扱うことを注意したので、帰ります。」
「もう少しいいじゃないですか。僕のおごりで、一杯飲みましょう。」
「断固拒否します。睡眠薬やら危険物が入っていそうなので。」
「クフフ・・・そんなことする訳ないじゃないですか。も、疲れているでしょう?」
「ホストの上手い口車にはのせられません。私はまだまだ仕事があるんですから。」
喧嘩を吹っ掛ける六道さんとは違って、そんな時間も無いんですよ、と肩を竦める。
「そうですか・・・では、さよならの挨拶を。」
彼は私の腕を引っ張り、私はバランスを崩してしまう。
そこを狙って、六道さんは、頬にキスをした。
「・・・・セクハラで訴えますよ。」
「その時は、一緒に法廷へ逝きましょう。」
「漢字変換間違ってますよ!」
たっく、と私は呆れた目で彼を見るが、彼はそんな事も気にせず、楽しそうだった。
「僕はいつでも、専門のホストになる準備はしているんですけどね。」
彼の言葉に、は眉を寄せる。
「そんな事したら、他のお客様に恨みを買いますので、無理ですよ。」
彼女は、これを熱烈な愛の告白とは気付いていないようで、骸はため息を吐いた。
何ですか、そのため息、と首を傾げるに、骸は微笑む。
「いずれ、体で分からせてあげますよ。」
「・・・・・何の話か分かりませんが、すごく嫌な予感がします。」
そう言って立ち上がったは、自身の腕時計に目を見やった。
「さて、と。日本支店に行って来ましょうか。」
「そこで、お仕事ですか?」
「ええ、まあ。雲雀さんに用があるので。」
骸は、雲雀、という単語にピクッと眉を動かした。
彼女に雲雀が会いに行く嫉妬もあるが、ストレス発散のための、悪戯を仕掛けに行こうと瞬時に企んだ。
「、私も「連れて行きませんよ。いつも、二人が店をめちゃめちゃにしているんですからね。」
は骸を睨みつけると、それじゃあ、と歩き出す。
しかし、そこで諦めるはずが無い、HOST ESTRANEOのナンバーワンホスト。
パッと動いての手を握ると、一緒に連れ立って歩き出した。
「・・・・何の真似ですか?」
「一緒に手を繋いで歩きたいだけですよ。」
「アンタがそんな純情な心を持つはずありません。すぐ一段飛び越して、進展していくんですから。」
「まあ、たまには純愛もいいと思いますよ。僕の趣味ではありませんが。」
「そうですね、SM主義ですもんね。」
「クフフフフフフフフ。よく分かっているじゃないですか。」
「笑いが以上に長いですよ。離して下さい!」
「嫌ですよ。」
数分、抗争が続いた後、結局二人で日本支部に行く事になった。
「いいですか、お約束事を守ってください。はい、一つ!」
「喧嘩をふっかけない。」
「二つ!」
「うるさくしない。」
「三つ!」
「の言う事を聞く。」
「はい、よくできました。では、入りますよ。」
「ご褒美に、頬にキスなんてどうでしょう?」
「まだ出来てないのに、そんな約束できますか。」
「それじゃあ出来た暁には、やってくれるんですね?」
「さあ?どうでしょう。」
そう言って、妖艶には微笑む。
その笑みに、元ホステスを垣間見たように思えた骸は、心の中で思う。
、あなたはホステスを辞めても、全ての人を魅了し、全ての人を癒すことが出来るのですね。
出来るというよりも、自然体がそうなのでしょうが・・・
、あなたは天性の、人を癒すことが出来る、闇の人間だと、気付いていますか?
光の世界に戻ろうとしているを、僕はどうすればいい?
の後姿に思いを馳せて、骸は、支部の壮麗な玄関を潜った。
多分、続く、かな?
企画夢として、FRANCIUMさまに捧げます!
2007.07.23 Author 桜井李羅 from Moment